歴史的建造物をはじめとした数々のアートに採用されている黄金比について解説します。
計算だけでデザインする人はほとんどいませんが、迷った時に黄金比スケールを当てるだけでも解決の糸口が見つかることもあり、知ってて損のない比率です。
黄金比とは?
黄金比とは、数学や美術、建築、自然界などさまざまな領域で見られる特定の比率のことを指します。
- 黄金分割
- 黄金比率
- ゴールデン・レシオ
- ゴールデン・プロポーション
‥‥など。
具体的な比率値は、1:1.6180339887‥‥となります。
小数点以下は無限に続くので小数点以下はまとめ、「黄金比=1:1.1618」として扱うのが一般的です。
【黄金比の数式】
黄金比はフィボナッチ数列とも関連があります。
フィボナッチ数列は、最初の2つの数が 1 と 1 で、その後の数は直前の2つの数を足して得られる数列です。この数列は次第に黄金比に収束していく特性のある数列のことです。
例1)1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21…
例2)下図では、短辺1の正方形が2つ集まって短辺2(1+1)の正方形を作り、次に短辺3(1+3)の正方形を作り、次に短辺5(2+3)の正方形を作り…、数が増える程に精度の高い黄金比を形成していく。
黄金比の計算
黄金比の定義は1:1.618の比率です。
短辺をa、長辺をbとした場合は以下の値になります。
例1)短辺a=2
- a=2,b=3.236
例2)短辺a=3
- a=3,b=4.854
※黄金比は無限小数なので、8以下は切り捨てて計算します。
あと、黄金比とは以下が成り立つ比率でもあります。
- a:b=b:(a+b)
これが意味するのは、長辺から短辺を引いたところ(b-a)に小さい黄金比が出現するということです。
黄金比は、増殖しても縮小しても同じ比率の図形が連続します。
黄金比はなぜ美しい
黄金比は美的な魅力を持つ比率とされていて、美術や建築においてバランスや調和を表現するためにたびたび使用されてきました。
「なぜ美しいと感じるのか?」との理由としては、生物のDNAに刻まれた調和のロジックだからと言えます。
実際、黄金比は植物の葉の配置、動物の身体の部位などでも確認することができ、多くの人がそこにバランスと調和を感じます。
顔の黄金比
顔の黄金比とは、顔の幅と長さの比率です。
1:1.618の黄金比に近いほど美しいとされています。
代表的なのがモナリザですね。
但し、顔は目・鼻・口といったパーツが複雑に組み合わさって美しさのバランスを形作るのと、地域や文化によって美しい顔の定義が異なることなどから、単純な幅:長さの黄金比だけで美しさを判断することはできません。
また、「幅:長さ以外」のパーツにも理想といわれる比率があり、それらは黄金比とは関係のない比率を採用しています。
\パーツ単位の理想の比率は1.618とは関係ない/
顔の各パーツには、1:1.618とは関係なく理想的と言われる比率があります。
ただし、これらは時代・地域によって簡単に変わります。
- 顔の横幅=目の横幅×5
- 顔の長さ(1:1:1)=髪の生え際~眉:眉~鼻の下:鼻の下~あご下
- 白目と黒目(1:2:1)=左側の白目:黒目の横幅:右側の白目
- 目と目の離れ方(1:1:1)=左目の横幅:目と目の距離:右目の横幅
- 小鼻の大きさ(1:1)=左右の小鼻を結んだ距離:目と目の距離
- 鼻の長さ(縦幅)=左右の小鼻を結んだ直線×1.5倍
- 鼻の位置(1:1:1)=髪の生え際~眉:眉~鼻の下:鼻の下~あご下
- 小鼻と唇の横幅(2:3)=左右の小鼻を結んだ直線:唇の横幅
- 上唇と下唇の大きさ(2:3)=上唇:下唇
- 人中からあごまでの距離(1:2):鼻の下~唇の中心:唇の中心~あご下
白銀比
顔の黄金比(1:1.618)は彫りの深い欧米人型の美人にはよく合いますが、日本人のような彫りの浅い人種の場合、長辺がやや短い白銀比の方が自然とマッチします。
【白銀比】
- 1: 1.414(5:7)
人の顔を見て「黄金比で美しい!」なんていちいち評価することはありませんが、顔の黄金比と各パーツの理想比率を覚えておくと、人物を描くときに参考になります。
注意点は、比率を忠実に再現してしまうと隙のないロボットみたいな美人になってしまい、人間味がなくなることです。
実際、人間や美人画では、やや崩した比率や左右非対称の方が人間味があって、親しみやすい美人になることが多いです。
デザインの黄金比
デザインで活用される黄金比
デザインの現場では、バランスや調和を作り出すためのガイドラインとして黄金比を意図的に活用するシーンが多くあります。
代表的なものが以下です。
◎レイアウトとマージン(余白)
- ウェブデザインや印刷物のデザインでは、コンテンツの配置やマージンの設定に黄金比を使用することが多々あります。
- コンテンツ領域と余白の比率を黄金比に合わせることで、バランスの取れたデザインになります。
◎フォントサイズと行間
- フォントサイズと行間(行の間隔)の比率を黄金比に近づけるのも基本的なテクニックです。
- 黄金比に配置された行間は読みやすく、視覚的なバランスも良いです。
◎イメージの配置
- 写真やイラストなどの画像配置も、黄金比を意識して配置することで画像とテキストや余白のバランスの調和が上手くいきます。
- 視線の導線と黄金比の配置を意識することで、伝わりやすさも上がります。
◎ロゴデザイン
- ロゴデザインでも黄金比を適応しているシーンがよく見られます。
- 黄金比を取り入れることで、視覚的に引き立ちつつも認識しやすさもアップします。
◎アートとイラスト
- 絵画やイラストにおいても、対象物の配置やサイズに黄金比を応用して、バランスやアクセントを設定することがよくあります。
- 黄金比で構成された構図は、作品の持つ重量感や安定感が増します。
上記はデザインの一例です。
デザインでは、視覚的な感覚やコンセプトなども盛り込むことの方が重要だったいするので、必ずしも黄金比にだけ注力することはありません。
螺旋の黄金比
自然界の黄金比
黄金長方形の正方形の列を、角の点を滑らかに順につないでいったときの渦巻き状の螺旋を「黄金螺旋」と呼びます。
螺旋の黄金比は、自然界でよく見られます。
◎フィボナッチ螺旋
- フィボナッチ数列に基づく螺旋は、黄金比に近い比率で螺旋が広がっていくものです。
◎へリックス構造
- タンパク質やDNAの分子構造など、生物の分子に見られるへリックス(螺旋)構造が、黄金比の関係を持つことがあります。
◎貝殻
- 貝殻の模様に黄金比が見られることがあります。
- 特に、巻貝の殻の成長や模様が黄金螺旋に近い形状を示すことがあります。
◎植物の成長
- 植物の葉や花が、茎に対して螺旋状に配置されているケースがあります。
- その配置に黄金比が関与していることがあります。
長方形の黄金比
長方形の黄金比
長方形の黄金比とは、長方形の縦と横の比率が黄金比に近いものを指します。
長方形の黄金比は意図的に取り入れやすく、デザインや建築分野でよく見かけます。
◎彫刻
- 有名なミロのビーナスは、つま先からおへそまでの距離と、つま先から頭頂部までの距離が1:1.618の黄金比になっています。
◎ピラミッド・パルテノン神殿
ピラミッドやパルテノン神殿も黄金比を取り入れたデザインになっています。
- ピラミッド:高さと底辺の比率が黄金比。
- パルテノン神殿:縦と横の比率が黄金比。
身の回りの黄金比
身の回りにある黄金比
身の回りを注意してみると、前述した以外にも黄金比を活用した商品や建築物、ロゴなどが多く存在することに気づきます。
家具デザイン
- モダンな家具デザインをよく見ると、縦横の比率が黄金比に近いものが多くあります。
クレジットカードデザイン
- クレジットカードのサイズは世界共通で「53.98mm×85.6mm」。
- 実は黄金比に近いサイズです。
- デザインも、黄金螺旋などを意識したものが多いです。
名刺デザイン
- 名刺の一般的なサイズは「55mm×91mm」です。
- コチラも黄金比に近い比率になっています。
- クレジットカード同様、デザイン・レイアウトに黄金比を取り入れたものが多く見られます。
黄金比 まとめ
黄金比は、建築・デザイン・アートや自然界でよく見られる縦:横の比率が1:1.618になっているものです。
自然界にもフィボナッチ数列による黄金比が色んなところで構成されていることから、生物本来のバランス感覚や安定感を訴えかける不変的な美的感覚の一つになっていると言えます。
ゆえに、黄金比は制作物への応用と相性がすこぶる良く、誰でも簡単に安定感と調和をもたらしてくれるおすすめテクニックです。
すごーく便利な黄金比ですが、優れたデザインは黄金比だけでは解決できないことも覚えておきましょう。
デザインには、コンセプト、伝える意図、導線などを総合的に盛り込み、正しく伝わる・充分な機能を果たすことが最も重要なポイントです。
黄金比に固執しすぎないのも、上手にデザインするコツだったりします。